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浦和地方裁判所 平成12年(行ウ)12号 判決 2000年12月18日

原告

A株式会社

右代表者代表取締役

被告

秩父税務署長 檀原武

右指定代理人

安部憲一

金谷滝夫

内田秀明

小野塚仁

小池充夫

小山博実

田口勉

萩庭隆伸

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告

1  被告が原告に対し、平成一〇年三月三〇日付けでした、平成六年四月一日から平成七年三月三一日まで(以下「平成七年三月期」という。)、平成七年四月一日から平成八年三月三一日まで(以下「平成八年三月期」という。)及び平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで(以下「平成九年三月期」という。)の各課税期間の消費税の各更正処分並びに平成七年三月期及び平成九年三月期の各課税期間の過少申告加算税の各賦課決定処分は、これを取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の答弁

主文と同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、いわゆる建売住宅の販売業者である原告が、平成七年三月期、平成八年三月期及び平成九年三月期の各課税期間の消費税についてした確定申告に対し、被告がした各期の更正処分及び平成七年三月期及び平成九年三月期の各課税期間の過少申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求める事案である。

原告は、本件各処分に係る消費税の各更正通知書及び各賦課決定通知書に理由の附記がないこと、消費税の簡易課税制度における事業区分の判定に誤りがあること等を各処分の違法事由として主張している。

二  基本的事実関係(当事者間に争いがない。)

1  原告は、平成七年三月期、平成八年三月期及び平成九年三月期の各課税期間の消費税について、次のように確定申告をした。

(一) 平成七年三月期

確定申告の日 平成七年五月二九日

課税標準額 六三七五万二〇〇〇円

課税標準額に対する消費税額 一九一万二五六〇円

控除対象仕入税額 一五三万〇〇四八円

限界控除税額 ―

納付すべき税額 三八万二五〇〇円

(二) 平成八年三月期

確定申告の日 平成八年五月二〇日

課税標準額 三四九〇万二〇〇〇円

課税標準額に対する消費税額 一〇四万七〇六〇円

控除対象仕入税額 八三万七六四八円

限界控除税額 一五万八〇八五円

納付すべき税額 五万一三〇〇円

(三) 平成九年三月期

確定申告の日 平成九年五月一二日

課税標準額 九二一七万三〇〇〇円

課税標準額に対する消費税額 二七六万五一九〇円

控除対象仕入税額 二二一万二一五二円

限界控除税額 ―

納付すべき税額 五五万三〇〇〇円

2  被告は、平成一〇年三月三〇日、原告に対し、各年度の課税期間の消費税の確定申告に対し、次のように各更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

(一) 平成七年三月期

課税標準額 六三七五万二〇〇〇円

課税標準額に対する消費税額 一九一万二五六〇円

控除対象仕入税額 一三三万八七九二円

限界控除税額 ―

納付すべき税額 五七万三七〇〇円

(二) 平成八年三月期

課税標準額 三四九〇万二〇〇〇円

課税標準額に対する消費税額 一〇四万七〇六〇円

控除対象仕入税額 七三万二九四二円

限界控除税額 二三万七一一三円

納付すべき税額 七万七〇〇〇円

(三) 平成九年三月期

課税標準額 九二一七万三〇〇〇円

課税標準額に対する消費税額 二七六万五一九〇円

控除対象仕入税額 一九三万五六三三円

限界控除税額 ―

納付すべき税額 八二万九五〇〇円

3  更に、被告は、同日、原告に対し、平成七年三月期分の課税期間の過少申告加算税として一万九〇〇〇円、平成九年三月期分の課税期間の過少申告加算税として二万七〇〇〇円の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分及び本件賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)をした。

4  原告は、本件各処分を不服とし、その取消しを求めて、平成一〇年四月一五日付けで、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、同年七月一六日、各異議申立てをいずれも棄却する旨決定し、その頃、右異議決定書謄本が原告宛に送付された。

5  原告は、同年八月一二日、国税不服審判所長に対して、本件各処分の取消しを求めて、審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)が、国税不服審判所長は、平成一一年三月二六日、本件審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、平成一一年三月三〇日に、本件裁決書の謄本を、本件裁決書謄本の送達場所である原告の所在地、郵便番号並びに原告の名称及び代表者の氏名を記載した「裁決書謄本の送達について」と題する文書とともに、書留郵便により審査請求人である原告に発送し、原告に対しては、同月三一日に配達されて送達された。

6  原告は、右裁決を不服とし、平成一二年一月一二日、国税不服審判所長に対し、本件裁決につき再審判を求める文書を提出した(以下「本件再審査請求」という。)ところ、国税不服審判所長は、これを審査請求書として収受し、同年二月一七日、右請求を不適法として却下する旨の裁決をした。

7  原告は、同年三月二七日、本訴に及んだ。

三  当事者の主張

1  被告の本案前の主張

(一) 本件訴えは、いずれも、被告がした本件各処分の取消しを求める取消訴訟であるところ、取消訴訟は、これに対する審査請求をした者については、その者が裁決があったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならないと定められているところ(行訴法一四条四項、一項)、審査請求人に対する裁決書が、当該審査請求人の住所に送達される等により、社会通念上裁決がされたことを知りうべき状態に置かれたときは、反証のない限り、審査請求人はその裁決があったことを知ったものと推認するのが相当である。

(二) これを本件についてみると、国税不服審判所長は、本件裁決書の謄本を、本件裁決書謄本の送達場所である原告の所在地、郵便番号並びに原告の名称及び代表者の氏名を記載した「裁決書謄本の送達について」と題する文書とともに、平成一一年三月三〇日に、書留郵便により審査請求人たる原告に発送し、原告に対しては、翌三一日に配達されて送達されたことが明らかである。

(三) そうすると、原告は、本件裁決書の謄本が原告に送達された同年三月三一日に、本件裁決があったことを知りうべき状態に置かれたものということができるから、原告は、同日、本件裁決があったことを知ったものというべきである。

(四) 本件において、原告として本件各処分の取消しを求めるためには、本件裁決のあったことを知った日である平成一一年三月三一日から三箇月以内の同年六月三〇日までに取消訴訟を提起することを要するものであるところ、原告が本件取消訴訟を提起したのは、平成一二年三月二七日であるから、本件取消訴訟は、出訴期間を徒過した不適法なものというべきである。

(五) なお、原告は、国税不服審判所長に対し、同年一月一二日付けで本件再審査請求をしたものであるところ、本件再審査請求は、その却下裁決に示されているとおり、本件裁決に対し繰り返しされた、不適法なものであるから、適法な審査請求ということができず、したがって、本件再審査請求に対する裁決のあったことをもって、行訴法一四条四項に規定する裁決があったとして新たに出訴期間を算定することはできない。

2  本案前の主張に対する原告の反論

(一) 取消訴訟の出訴期間について、行訴法一四条三項は、「取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りではない。」としており、正当な理由があれば提起できると解するのが至当である。

(二) 原告の行った本件再審査請求は、原告と全く同一の営業形態をとっている業者が税務調査の上控除対象仕入税率八〇パーセントとして他税務署管内で認められている事実を確認したので、裁決時にはなかったこの新事実により再考を求めるためにしたものである。

3  請求原因

本件各処分は、いずれも、(一) 本件更正処分の更正通知書及び本件賦課決定処分の賦課決定通知書に理由の附記がないこと、(二) 被告が、控除対象仕入税額の計算において、簡易課税制度における事業区分について消費税法(平成六年一二月二日法律一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)三七条一項に規定する政令で定める事業に関し、原告の行う事業を、消費税法施行令五七条一項で定める事業のうち、第二種事業ではなく、第三種事業と認定し、みなし仕入率を七〇パーセントとしたことにおいて、違法な処分として取消しを免れないものというべきである。

4  請求原因に対する被告の反論

原告の主張は、いずれも争う。

本件各処分等の経緯、本件各処分の根拠及び適法性並びに原告の主張に対する反論は、別紙「被告の主張」記載のとおりである。

理由

一  まず、被告の本案前の主張につき検討する。

1  行訴法一四条四項、一項は、当該行政処分につき審査請求をすることができる場合において審査請求があったときは、その者は、これに対する裁決があったことを知った日から起算して三箇月以内に、当該処分の取消しを求める訴えを提起しなければならない旨を定めている。

2  これを本件についてみると、前記事実関係からすると、本件各処分につき本件審査請求をした原告としては、たとえ本件裁決があった時から一年を経過していなくとも、本件審査請求に対する裁決があったことを知った日から三箇月を経過した場合には、自己の責めに帰することのできない事由により右期間を遵守できず、訴訟行為の追完をすることができる場合でない限り、取消訴訟を提起することはできないものである。

ところで、国税不服審判所長は、本件裁決書の謄本を本件裁決書謄本の送達場所である原告の所在地、郵便番号並びに原告の名称及び代表者の氏名を記載した「裁決書謄本の送達について」と題する文書とともに、平成一一年三月三〇日に、書留郵便により審査請求人である原告に発送し、これが原告に対しては、翌三一日に配達されて送達されたことは前記認定のとおりである。

そうすると、原告は、本件裁決書の謄本が原告に送達された同年三月三一日に、本件裁決があったことを知りうべき状態に置かれたものということができるから、原告は、同日、本件裁決があったことを知ったものと認めるのが相当であって、原告としては、同日から起算して三箇月となる同年六月三〇日までに取消訴訟を提起しなければ適法な取消訴訟を提起したこととはならないものというべきである。

しかるに、本件訴えは、前記のとおり、平成一二年三月二七日に提起されたものであるから、適法な取消訴訟の提起とならない上、本件に顕れた全証拠によるも、前記の三箇月以内に訴えを提起できなかったことにつき、原告の責めに帰することのできない事由が存在したものとは認めることはできない。原告が、その主張するように、調査の上、原告と全く同一の営業形態をとっている業者が税務調査の上控除対象仕入税率八〇パーセントとして他税務署管内で認められている事実を確認したことがあったとしても、このことをもって原告の責めに帰することのできない事由と認めることはできない。

3  なお、行訴法一四条四項に規定する裁決は、適法な審査請求に対するものでなければならないと解されるところ、本件再審査請求は、これを本件各処分の取消しを求めたものとすると、本件裁決に対し繰り返しされたものであり、また、本件裁決自体の取消し請求と解すると、国税通則法七六条一項により審査請求が認められていない処分に対するものであるから、いずれにせよ、適法な審査請求ということはできないから、本件再審査請求に対する裁決のあったことをもって、行訴法一四条四項に規定する裁決があったとして、その日から新たに出訴期間を算定することはできない。

二  よって、本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝 裁判官 中野宏一)

(別紙)

被告の主張

第一 本件課税処分等の経緯

原告は、原告自らが施主となって建設業者との間で請負契約を締結し、建設業者に施工させた建物を一般消費者に販売する、いわゆる建売住宅の販売業者であり、他の業者が施主となって建築した建物や他の業者が購入した建物の仕入販売は行っていない。

被告は、原告に対し行った法人税の税務調査において判明した右事実等から判断して、第四の二の一で後述する簡易課税制度の適用を自らの意思で選択した原告の事業が、消費税法施行令(平成八年政令八六号(平成九年四月一日施行)による改正前のもの。以下「施行令」という。乙第二号証)五七条五項に規定する第二種事業には当たらず、第三種事業に当たると認め、本件処分を行ったものである。

なお、原告の本件課税処分等の経緯は、別表一ないし三のとおりである。

第二 本件処分の根拠及び適法性

被告は、被告が平成一〇年三月三〇日付けで行った原告の平成七年三月期、平成八年三月期及び平成九年三月期(以下「本件各係争課税期間」という。)の消費税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに平成七年三月期及び平成九年三月期の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)について、その根拠及び適法性を以下のとおり主張する。

一 本件各更正処分の根拠について

被告が、本訴において主張する原告の本件各係争課税期間に係る消費税の納付すべき税額の計算根拠は、次のとおりである。

1 平成七年三月期の更正処分の根拠

<省略>

(一) 課税標準額六三七五万二〇〇〇円

右金額は、平成七年三月期の消費税の課税標準額であり、原告の確定申告額と同額である。

(二) 課税標準額に対する消費税額一九一万二五六〇円

右金額は、消費税法(平成六年法律一〇九号(平成九年四月一日施行)による改正前のもの。以下同じ。乙第三号証)二九条の規定により、右(一)の課税標準額に税率一〇〇分の三を乗じた金額であり、原告の確定申告額と同額である。

(三) 控除対象仕入税額一三三万八七九二円

右金額は、消費税法三七条一項の規定により、右(二)の課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入等の税額の合計額(以下「控除対象仕入税額」という。)であり、第四の二の3で後述するとおり、原告の事業は第三種事業に該当するので、右(二)の課税標準額に対する消費税額に一〇〇分の七〇を乗じて算定した金額(以下、平成八年三月期及び平成九年三月期の計算も同様である。)である。

(四) 納付すべき税額五七万三七〇〇円

右税額は、右(二)の課税標準額に対する消費税額から右(三)の控除対象仕入税額を控除した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)一一九条一項により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額。)である。

2 平成八年三月期の更正処分の根拠

<省略>

(一) 課税標準額三四九〇万二〇〇〇円

右金額は、平成八年三月期の消費税の課税標準額であり、原告の確定申告額と同額である。

(二) 課税標準額に対する消費税額一〇四万七〇六〇円

右金額は、消費税法二九条の規定により、右(一)の課税標準額に税率一〇〇分の三を乗じた金額であり、原告の確定申告額と同額である。

(三) 控除対象仕入税額七三万二九四二円

右金額は、平成八年三月期の控除対象仕入税額であり、平成七年三月期と同様に、右(二)の課税標準額に対する消費税額に一〇〇分の七〇を乗じて算定した金額である。

(四) 限界控除税額二三万七一一三円

右金額は、消費税法四〇条の規定により、その課税期間における課税売上高が五〇〇〇万円に満たない平成八年三月期について、限界控除前の税額三一万四一一八円(平成八年三月期の課税標準額に対する消費税から控除対象仕入税額を差し引いた金額)に、二〇〇〇万円のうちに五〇〇〇万円から当該課税期間における課税売上高(原告が確定申告書に記載した金額である三四九〇万二八八七円)を控除した残額の占める割合を乗じて計算した金額である。

(五) 納付すべき税額七万七〇〇〇円

右税額は、右(二)の課税標準額に対する消費税額から右(三)の控除対象仕入税額及び右(四)の限界控除税額を控除した金額(ただし、通則法一一九条一項により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額。)である。

3 平成九年三月期の更正処分の根拠

<省略>

(一) 課税標準額九二一七万三〇〇〇円

右金額は、平成九年三月期の消費税の課税標準額であり、原告の確定申告額と同額である。

(二) 課税標準額に対する消費税額二七六万五一九〇円

右金額は、消費税法二九条の規定により、右(一)の課税標準額に税率一〇〇分の三を乗じた金額であり、原告の確定申告額と同額である。

(三) 控除対象仕入税額一九三万五六三三円

右金額は、平成九年三月期の控除対象仕入税額であり、平成七年三月期と同様に、右(二)の課税標準額に対する消費税額に一〇〇分の七〇を乗じて算定した金額である。

(四) 納付すべき税額八二万九五〇〇円

右金額は、平成七年三月期と同様に、右(二)の課税標準額に対する消費税額から右(三)の控除対象仕入税額を控除した金額(ただし、通則法一一九条一項により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額。)である。

二 本件各更正処分の適法性について

1 中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例について

消費税法三七条一項は、「事業者が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高が四億円以下である課税期間についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、三〇条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における次条一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の一〇〇分の六〇に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率(以下「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額)とする。この場合において、当該金額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。」と規定(以下「簡易課税制度」という。)している。

これを本件についてみると、原告は平成四年六月八日に消費税課税事業者届出書(乙第四号証)及び消費税簡易課税制度選択届出書(乙第五号証)(以下「本件各届出書」という。)を自らの意思で被告に提出しており、また本件各係争課税期間ともその基準期間における課税売上高が四億円を超えていないので、原告には簡易課税制度が適用される。

2 簡易課税制度適用の取りやめについて

消費税法三七条二項においては、「前項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。」と規定している。

これを本件についてみると、原告は本件各係争課税期間において簡易課税制度の適用を受けることをやめる旨の届出書を被告に対して提出していない。

3 簡易課税制度における事業区分について

(一) 消費税法三七条一項に規定する政令で定める事業については、施行令五七条一項で、第一種事業ないし第三種事業の三種の事業に区分され、みなし仕入率については、同項において、第一種事業は一〇〇分の九〇、第二種事業は一〇〇分の八〇、第三種事業は一〇〇分の七〇とそれぞれ定められている。

また、同条五項一号において、第一種事業とは卸売業をいうとされ、以下同様に、同項二号において、第二種事業は、小売業、同項三号において、第三種事業は、農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。以下同じ。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業の各事業(以下「製造業等」という。)のうち、第一種事業及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く事業、同項四号において、第四種事業は、第一種事業ないし第三種事業以外の事業をいう旨規定されている。

なお、製造業等の範囲については、消費税法上他に事業分類を定めた規定がないので、おおむね、総務庁長官が告示し一般に広く使用されている日本標準産業分類(以下、単に「産業分類」という。)の大分類に掲げる分類を基準に判定されることとしている。

(二) ところで、第二種事業である小売業については、施行令五七条六項において、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で卸売業以外のものをいう旨規定されている。

ここで、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業に該当するか否かの判定は、建売住宅の販売業の場合には、当該建売住宅の建設工事を誰が施主となって施工したかで判断し、他の業者が施主となって完成した建売住宅を購入してそのまま販売する場合はこれに該当する。しかしながら、自己が施主となって建設業者に施工させた建物を一般消費者に販売する場合は、現実に施工したのは建設業者であっても、一般消費者との関係では施主の行為としてとらえられる上、当該建設業者との関係でも、建売住宅を同業者から受領する行為は、同業者との間の請負契約に基づく受領であるから、これは他の業者が施主として施工した建売住宅の購入とは異なる。

したがって建売住宅の販売業者が、自ら施主として建設業者に施工させて建設した建売住宅を一般消費者に販売する場合は、第三種事業の製造業に該当すると解するのが相当である。

(三) これを本件に当てはめてみると、原告の事業は、原告自らが施主となって建設業者との間で請負契約を締結し、建設業者に施工させた建物を一般消費者に販売する、いわゆる建売住宅の販売業であり、他の業者が施主となって建築した建物や他の業者が購入した建物の仕入販売は行っていないことから、原告の事業は、第二種事業の小売業ではなく、第三種事業の製造業に該当する。

なお、原告の本件各届出書の事業内容欄には、不動産売買、建築他との原告自身による記載があり、原告自身も自己の事業を右にいう製造業として把握していることが認められる。

4 小括

本来、消費税の納付すべき税額は、消費税法三〇条に規定するように、その課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中の課税仕入れに係る消費税額の合計額を控除して計算する(以下「本則課税」という。)のが原則である。

法に定める簡易課税制度は、中小事業者を対象に、消費税額の計算を簡素化し、もって事務処理面における納税負担を軽減する観点から設けられたものである。よって、事業者が簡易課税制度を選択した場合には、実際の仕入れに係る消費税額を計算することなく、事業者の営む事業の種類の区分に応じたみなし仕入率を用いることにより、控除対象仕入税額の計算を一律かつ簡便な方法により行うことを認めるものである。

そのため、本則課税でなく簡易課税制度を選択するかどうかは、事業者が平生の取引内容、その将来などを十分に吟味した上で自ら判断すべきであり、あくまで事業者の判断に委ねられているものである。

三 本件各賦課決定処分の根拠及び適法性について

本件各更正処分が適法であることは、前記第四の二のとおりであるところ、原告は、本件各係争課税期間の消費税を過少に申告していたものであり、過少に申告していたことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しない。

したがって、本件各更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった本件各係争課税期間(ただし、平成八年三月期を除く。)の各消費税額(ただし、通則法一一八条三項により、一万円未満の端数を切り捨てた後の金額。)を基礎として、同法六五条の規定に基づいてなされた本件各賦課決定処分は適法である。

第三 原告の主張に対する反論

一 理由の附記について

原告は、本件処分に係る消費税の更正通知書並びに加算税の賦課決定通知書には、青色申告納税者に必要とされている理由の附記がなく、本件処分は法人税法一三〇条に違反するとともに、最高裁判所の判例の趣旨よりして無効であるなどと主張する。

しかしながら、同条は内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合の規定であるから、消費税の課税標準や税額の更正を行う場合には適用されない。

また、消費税の課税標準や税額の更正をする場合に、その理由を附記しなければならない旨を定めた法令の規定はない。したがって、原告の主張は失当である。

二 推計による更正又は決定について

原告は、青色申告納税者の申告について、課税庁においてこれを更正する場合には、必ず青色申告者の備え付ける帳簿等の調査を行い、その課税標準等の計算に誤りがあると認められない限り更正を行うことができず、さらに更正に際しては実額課税が保証され(法人税法一三〇条二項)、推計による更正又は決定は禁止されている(法人税法一三一条)などと主張する。

しかしながら、法人税法一三一条は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定を行う場合の規定であるから、消費税につき更正又は決定を行う場合には適用されない。

また、そもそも、消費税法には推計に関する規定はなく、本件処分においても、被告は、推計による更正を行っているわけではない。

さらに、原告が青色申告の承認を受けている法人であるか否かにより、消費税の課税標準や税額の計算に何らの差異も生じることはない。したがって、原告の主張は前提を重ねて誤っており、主張自体失当である。

三 簡易課税制度における事業区分の判定について

原告は、原告の帳簿上の消費税控除可能仕入率は、平成九年三月期八一・五%、平成八年三月期七九・七九%及び平成七年三月期七七・〇八%であり、この数値は税務調査でも何ら修正も否認も受けていないので、原告の仕入率は簡易課税制度の第二種事業者に相応する値であり、原告が行った消費税の申告における控除対象仕入率八〇%とほとんど合致しており、原告の消費税の確定申告は過少申告には該当しない旨主張する。

しかしながら、第四の二の4で前述したとおり、簡易課税制度は、中小事業者を対象に事業者の事業区分に応じてみなし仕入率を用いることにより消費税額計算を簡素化し、もって納税事務負担を軽減する観点から設けられたものである。

すなわち、事業者が自らの意思で選択した簡易課税制度の適用を受ける場合には、施行令五七条五項に規定する事業区分に基づき、事業者の事業を第一種事業ないし第四種事業の四つの事業に区分した上で、それぞれの事業につき定められたみなし仕入率を適用して控除対象仕入税額を計算するものであり、事業者の現実の売上原価の多寡が事業区分を判定する要素となるものではない。

被告は、自らの意思で簡易課税制度を選択した原告の事業が、施行令五七条五項に規定する第二種事業には当たらず、第三種事業に当たると認められたことから、本件処分を行ったものである。

仮に原告が主張するように、現実の売上原価等に比し、適用されるみなし仕入率が低すぎるような場合には、第四の二の4で前述したように、原告は自らの意思で選択した簡易課税制度の適用を受けることをやめる旨の届出書を被告に提出し、本則課税の適用を受ければ足りることであり、いずれにしても原告の主張は失当である。

四 基本通達一三‐二‐一について

原告は、右基本通達は青色申告納税制度に保証されている実額課税が簡易課税制度を選択している業者にも、極力対応できるように定められている旨主張する。

しかしながら、右基本通達は、原則として簡易課税制度の事業区分は、事業者の行う課税資産の譲渡ごとに判定されるところ、資産の譲渡と役務の提供とが混合した取引である場合には、それぞれの対価の額を区分した上で個別に事業の種類を判定し、資産の譲渡と役務の提供とが混合した取引で役務の提供を現実に無償で行っている場合には、当該役務の提供部分は対価がないものとして、当該取引に係る対価の全額を資産の譲渡に係るものとして第一種事業ないし第四種事業のいずれかに区分して差し支えない旨を明らかにしたものであり、原告の主張は失当である。

五 全国の各課税処分庁の処分内容の統一について

原告は、全国の各課税処分庁の処分内容が統一されておらず、業種判定の理論には普遍性がない旨主張する。

しかしながら、簡易課税制度における事業区分については、施行令五七条五項に規定されており、取扱いは統一されている。

別表一

平成七年三月期 消費税に係る課税処分の経緯

<省略>

別表二

平成八年三月期 消費税に係る課税処分の経緯

<省略>

別表三

平成九年三月期 消費税に係る課税処分の経緯

<省略>

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